彼女と同棲するようになり、私の荒れた生活は落ち着いた。
いや、落ち着かなければならなかった。
私は貯金などなく、むしろマイナスでけっこうな借金もあった。
しかも彼女は知らない・・・。
とてもじゃないがこのまま結婚なんてできない。
私は新たな職場で再起してこの借金をまずチャラにすることを第一に考えなければならない。
とはいえ、美容師がいきなり稼げるわけもない。
新たな職場は今までとは違い「完全歩合制」
前職はどんなに自分の売上が高かろうが、サロンの目標を達成していなければ給与や賞与は上がっていかない。
私よりも売上の低い他店のスタイリストでも、私より給与が高いことは多々ある。
逆に、そこまで個人売上が高くなくても、大きく給料を下げられることもない。
人によっては、そちらのほうが安心して仕事できるだろう。
が、しかし、その給与体系に対する不満は少なからずあった。
とはいえ、今思えば、その給与体系はある意味正当な評価であった。
サロンの一員として、目標達成に向けての動きを私はできていなかったのだと思う。
自分の売上ばかり考え、「チームビルディング」に参加せず、自分勝手に行動していたように思う。
店長からしたら、早くやめてほしい存在だったのかもしれない。
もっと早く気がついていれば、なにか変わっていただろうか。
とはいえ完全歩合は私にとっては非常にやりがいを感じた。
やればやってだけ正当に評価していただけるのだから、これはやるしかない。
面接に行く前に、転職先の店長と元アシスタントと3人で食事をした。
あごヒゲを生やし、ジェルでラフに掻き上げたスタイルの、恰幅の良い体型のおにいさん。
同い年にはみえなかった。
店長はグループでNO1の売上らしく、かなりオーナーに心酔しており、深夜遅くまで仕事論を語ってくれた。
同い年の彼に今の時点で差をつけられていることに若干の嫉妬はあったものの、逆に「やってやんぞ」という闘志が芽生えていた。
店長と同じサロンで働けると言う事で、間近でその仕事ぶりをしっかりと観察してやろう・・・。
面接の日が決まり、当日はバチッと髪をセットし、ギャルソンのジャケット&シャツにドルチェ&ガッバーナのネクタイを締めて、指定された喫茶店に向かう。
そこにやってきたのは長い髪を巻き髪にしたやや派手目の年配の女性。
女性にしては背が高めだ。見るからに気が強そうだ。
オーナーだから、当たりまえか・・・。
私「ヨシダです、よろしくお願いします」
オーナー「ああ、あなたがヨシダくん?なにその格好?」